Yuma Sakurai Website

Development of contrast-enhanced micro computed tomography protocol for the oval squid (Sepioteuthis lessoniana) brain.
Sakurai Y. & Ikeda Y. 2019. Microscopy Research and Technique, 82: 1941-1952.
鞘形類 (イカ類やタコ類) はカモフラージュやコミュニケーション、記憶・学習など様々な行動を示します。それらの行動は、無脊椎動物で最大サイズとなる脳によって制御されています。鞘形類の脳は、約40個の脳葉と呼ばれる脳領域から構成されており、各脳葉が特定の機能を有しています。そのような脳の構造は、切片の顕微鏡観察による組織学的手法から明らかとされてきました。
近年では、小型動物用のX線CT (micro-CT) を用いて、切片を作成するなどの侵襲的な処理を行わずとも、体内構造を観察できるようになりました。Micro-CTは、組織をX線がどれだけ通過したのかを測定することで、白黒のコントラストを作り出します。骨のような硬組織はX線を吸収しやすいため白く、脳のような軟組織は吸収されにくいため黒く映し出されます。そのため、脳のような軟組織を観察するためには、造影剤を用いてX線が吸収されやすくする必要があります。造影剤として適切な条件として、安価であること、害が少ないこと、短時間で組織に浸透すること、組織の収縮や膨張が起こりにくいことなどがあります。それらの条件に適合するものとして、ヨウ素やリン酸を含む溶液が用いられています。
本研究では、micro-CTで鞘形類の脳を観察するために、最適な造影剤の条件を決定することを目的としています。そのために、アオリイカ (Sepioteuthis lessoniana) を用いて、4つの造影剤について異なる濃度と造影時間で染色した後に、micro-CT (R_mCT2) で脳を観察しました。造影剤は、他の動物で良く用いられるヨウ素エタノール溶液 (I2E)、ヨウ素ヨウ化カリウム水溶液 (I2KI)、リン酸エタノール (PTA)、イオパミロンを選んだ。濃度に関しては、I2Eで0.1、1、3、5、7、10%、I2KIとPTAで0.3、1、3、5、7、10%、イオパミロンで300 mg/mlに設定した。造影時間に関しては、何れの濃度でも7、14、21日間で、それらの時間ごとに撮影を行った。
最適な造影剤を決定するためにまず、何れの条件で脳葉を最も特定できるかを調べた。その結果、3%I2KIで7日間染色したときに、最も多くの脳葉を特定できた。次に、何れの条件で最も高いコントラストが生じるかを調べた。その結果、3%I2KIで染色した場合、他の造影剤で染色した場合に比べて高いコントラストを示し、特に21日間染色した場合に最も高いコントラストが生じていた。最後に、コントラストが高い3%I2KIで染色したサンプルとコントラストが低い0.1%I2Eで染色したサンプルとで、脳を3次元再構成することでその正確性を比較した。その結果、0.1%I2Eで染色したサンプルにおける脳は、脳以外の領域との境界が曖昧であったため正確な再構成ができなかったが、3%I2KIで染色したサンプルにおける脳は、そのような問題がないため正確な再構成ができた。
以上の結果から、3%I2KIで7日間染色すれば、観察に十分なコントラストのCT画像を取得することができることが明らかとなった (Figure 1)。この手法を用いることで、これまでよりも簡単かつ非侵襲的に頭足類の脳を観察することができます。
裏話
これは、卒論として初めて取り組んだ研究です。元々脳に関心があったので、先生からこのテーマを提案していただきました。研究室内でmicro-CTを使う技術を持っている人がいなかったため、使ったことがあるという別の研究室の人に聞いたり、論文を読み漁ったりして、何とか形にしました。右も左も分からない中取り組んで、最終的には学術論文として発表できたので、思い出の論文です。